こんにちは、今回は私の趣味である読書について「最近読んだ本」を紹介しようと思います。
タイトルに記載したように、今回おすすめする本は【死にゆく者の祈り】著者:中山七里さんの作品です。タイトルと表紙からして、なんだか重い印象を受けますよね。
私の好みは、サスペンスやミステリーといった内容は暗いが読み応えのある作品が好きです。そして、アンハッピーで誰も幸せにならない後味悪い物語も好きです。
病んでるように思われそうですが、全然そんなことありません。読み終わった後は、なんだか考えさせられる・・・そんな小説が好きなのです。
今回ご紹介するこの小説も、内容は暗いですが読み応えのある作品間違いなしです。
▶あらすじ
この作品は、教誨師(きょうかいし)である僧侶:高輪顕真が主人公です。早速聞きなれない言葉が出てきましたが、教誨師って何?と思う方も多いかと思います。
刑務所において、服役中の囚人に対して、過ちを悔い改め徳性を養うための道を説く者。多くは宗教家がこれに任ぜられる。日本ではとくに真宗の僧が多く行っている。
教誨師(きょうかいし)とは? 意味や使い方 – コトバンク (kotobank.jp)
物語の始まりは、僧侶:顕真が教誨を担当した死刑囚の死刑執行から始まります。
いきなり生々しい死刑執行シーンで序章から暗いです。自身が教誨を担当した死刑囚の死刑執行を見届ける、僧侶といえど一人の人間として顕真の心苦しい胸中が記されています。
そしてある日、刑務所で行われる集合教誨を頼まれた顕真は講話中、大勢の囚人の中から見覚えのある人物を発見し動揺を隠しきれません。その人物というのが、大学時代の友人:関根要一だったのです。この関根要一の登場で物語は大きく動き出します。
かつての友人である関根が5年前に1組のカップルを惨殺した死刑囚であるという事実を知った顕真は耳を疑いました。関根と直接会って話がしたいと思う顕真ですが、死刑囚には基本的に親族の面会しか許可されていません。
そこで、顕真は関根の教誨師となることを刑務官に頼み込み、関根がそれを了承したことで25年ぶりの再会を果たします。昔と何一つ変わらない関根の人となりを再確認すら顕真。
「関根は本当に人を殺したのか?」
そこから物語は、旧友の冤罪を疑い始めた僧侶:顕真が冤罪を証明するために奔走するストーリーとなっていくのです。
▶見どころ
この作品の見どころは3つあると思います。
- 顕真と関根の関係性、2人の過去
- 次々と明らかになる事件の真相
- 迫りくる死刑執行の日
それぞれの見どころを順を追って説明したいと思います。
顕真と関根の関係性、2人の過去
なぜ顕真は、関根の冤罪を疑い始めたのか。
旧友といえど、25年もの月日があれば人が変わっていてもおかしくありません。ましてや25年間、音沙汰もなかった旧友を善人だと信じることができるのか?
それは、顕真と関根の関係性が物語の背景として大きく影響しています。顕真にとって関根はただの旧友ではなく、命を救ってくれた恩人だったのです。
大学時代、関根と顕真そして顕真の彼女であった歩美を含めた3人は、同じ山岳サークルの仲間でした。
3人はパーティーを組んで登山する間柄で、歩美の卒業を控えた最後の登山に劔岳という難易度の高い山に挑みますが、その劔岳で3人の生死を分ける絶体絶命の状況が訪れます。
その絶体絶命の状況で自分自身の命を顧みず関根は無謀な行動に出ますが、結果的に顕真と歩美2人の命を救うこととなります。
その行動そのものが、関根の人となりである自己犠牲の精神を物語っており関根という人物の本来の姿を描いているキーポイントとなっています。
次々と明らかになる事件の真相
関根の冤罪を信じて疑わない顕真は、当時の事件を調べ始めます。
そこで、当時事件に関わっていた文屋という刑事と出会いますが、顕真の訴えに耳を傾けた文屋も顕真同様に事件の内容に疑念を抱き始めます。顕真と文屋の2人は事件を一から調査し始めるのです。
調査の中で浮かび上がってくる黒島竜司という1人の男性。
その男性が、この物語のキーパーソンとなっています。この黒島竜司という人物を調査する内に、顕真も知られざる関根の秘密が明らかとなっていくのです。
本当に関根は冤罪なのか?調査を行ううちに、事件の全体像がはっきりしていくところが見どころです。
迫りくる死刑執行の日
事件の調査を続ける最中、無常にも関根の死刑執行が決定してしまいます。
事件の解明まであとほんのわずか、というところで死刑が執り行われる日時が決定し切羽詰まった状況となるのです。
刻一刻と、関根の死刑執行までのカウントダウンが始まります。そんな状況下でも、顕真は諦めずに旧友の冤罪を晴らすため最後の最後まで奔走するのです。
果たして、関根は本当に無実であり真犯人は別にいるのか?死刑を望む関根の本心とは?
最後の最後まで鬼気迫る状況にハラハラし、最終章に踏み込めば最後まで読み切らないと気になって眠れないこと間違いなしです。
怒涛のクライマックスは臨場感に溢れ、読者までも本の中に引き込まれます。
▶読後の考察
死刑囚である関根の本心を知ると、贖罪として死刑を望む極端な自己犠牲の精神はいったい誰のためになるのか考えてしまいます。
この本を読んで一番印象に残っているのは、善良で誠実な弁護士:江神の「死んで償えるものより、生きて償えるものの方が大きいはずです。」というセリフです。
関根の本心が分かると、そのセリフの重みが増して心に響きます。
死刑制度が認められている日本では「死刑になりたかった」という身勝手な理由で、他人を傷つけ命まで奪う犯罪がたびたび起きます。
そんな死刑制度を逆手にとった事件が起きるたび、端から死を望んでいるものにとって死刑制度とはどんな意味を成すのだろう。
それは果たして、奪われた人の尊い人生と残された者の無念を晴らす償いとなるのか考えずにはいられません。
死刑や冤罪といった重いテーマですが、日本の死刑制度を改めて考える一冊となりました。
テーマが類似しているおすすめドラマ▶エルピス
去年、長澤まさみさんと眞栄田郷敦さんW主演で話題になったドラマ:エルピス。
このドラマも、冤罪がテーマになっています。
長澤まさみ演じるアナウンサー:浅川恵那と眞栄田郷敦演じる新米ディレクター:岸本拓郎が死刑囚である1人の男性の冤罪を疑い始めたことで、事件の真相解明へと動き出します。
冤罪事件に隠された国家権力の闇と、報道人としての使命を果たすべく巨悪に立ち向かい続ける登場人物たちの正義感に胸を打たれます。
死刑や冤罪と重いテーマですが、コメディタッチな部分や恋愛要素も多少盛り込まれているので、小説の内容が重すぎると思った方はこちらのドラマをおすすめします♪